NTT西日本事件(平成21年11月27日大阪高裁判決)
■概要
会社は、労働者に対し、旧制度(60歳定年後に最長65歳まで1年契約を更新して
再雇用する制度)の廃止を含めて本件制度※1を説明し、再選択の際にも、内容を
説明したが、Xらは明示的に会社に選択通知しなかったため、60歳満了型※2を選択
したとみなされ、60歳で定年退職したものとして扱われた。
Xらは、会社が、高年法第9条に基づく定年後の継続的雇用を確保すべき義務に違反
して何らの措置を採らなかったなどとして、債務不履行または不法行為に基づく
損害賠償請求をしたが、原審が棄却したため、Xらが控訴した。
※1(再雇用型):51歳以降は地域会社へ転籍し、所定内給与は20~30%減額と
なり、61歳以降は契約社員として65歳まで再雇用される。
※2 (60歳満了型):本店・支店・関連会社で60歳まで勤務し、成果業績に応じた
高収入の機会が与えられるが、全国への広域配転・出向がある。
☆ポイント
1.高年法第9条は、労働者に事業主に対する継続雇用制度の導入請求権ないし継続雇用
請求権を付与した規定(直截的に私法的効力を認めた規定)とまで解することはできない。
2.仮に同条項によって事業主に作為義務があるとしても、その作為内容が未だ抽象的で、
直ちに私法的強行性ないし私法上の効力を発生させる程の具体性を備えているとまでは
認めがたい。
3.同法には同条第1項の義務に違反した場合について、労基法第13条※3のような
私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定もない。
※3(労基法第13条):この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約
は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、
この法律で定める基準による。
4.仮に同条1項の義務を私法上の義務と解すると、同義務内容となる給付内容が
特定できないといった解釈上困難な問題を惹起する。
★判決
1.会社はXに対し、
継続雇用制度の導入義務ないし継続雇用義務まで負っているとまではいえない。
2.事業主が転籍型の継続雇用制度を採用する場合、特段の事情でもない限り、
事業主と転籍先との間で少なくとも同一企業グループとの関係とともに転籍後も
高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認められなければならないと
解するのが相当であり、本件制度では、資本的な密接性が認められるのみならず、
再雇用に関する就業規則を制定して、基本的に再雇用されることとし、
現にそのように運用されているというのであるから、本件制度は、同条1項2号で
定める継続雇用制度に適合する制度である。
3.本件制度が高年法に適合しないといえないことは原判決の説示するとおりであり、
旧制度からの変更は、従業員に就業規則等の不利益をもたらすものとしても、
その不利益変更にはその法的規範性を是認するだけの合理性がある。
△類似参考判例
NTT東日本事件(東京地裁 H21.11.16、東京高裁 H22.12.22)