X運輸事件(H22.9.14 大阪高裁)

X運輸事件(大阪高裁判決 2010.9.14)

 

■概要

 定年退職後、シニア社員(嘱託)として再雇用された者が、

正社員当時の給与と比較して極めて低額であることは違法と主張して、

正社員当時との給与差額と損害賠償の支払いを求めたが、

公序良俗に反していると認めるのは困難であるとして、控訴棄却。      

 シニア社員制度の労働契約書では、時間給1000円、賞与なし。

従前の嘱託社員は時給900円で賞与あり。

 Xの定年退職前の給与は、基本給15万5914円のほか業務手当、能率給、

賞与相当額などで合計42万6197円だったが、

シニア社員後賃金は基本給15万7500のほか深夜残業手当と有給手当のみ

で合計23万875

 

☆判決

 「正社員当時の賃金額についての黙示の合意があったともいえず、又、

 従前の嘱託制度との対比からみても、一定の基準を満たせば原則として採用

 すべきものとされたものであって、従業員らに65歳までの安定的な雇用が

 確保されるという大きな利益がもたらされたもので、

 従業員に有利に改正された。」
 

 「嘱託の地位は正社員より後退した内容ではあるが、

 高年齢者雇用安定法の予定する枠組の範囲内であり、

 同法に期待される定年後の雇用の一定の安定性が確保される道が開かれた

 との評価もできる。」

 

★ポイント

1.シニア社員制度の賃金額の合意について

  控訴人は、「時給1000円、賞与なし」の記載を含むシニア社員制度の

 詳細が記載された本件各契約書に署名押印しているのであるから、

 他に特段の事情の認められない限り、「時給1000円、賞与なし」の点について

 も合意が成立したものと認めるのが相当である。

 

  控訴人は、賃金額に異議を留めた旨主張しているが、本件各契約書の

 文面上、控訴人が異議をとどめた形跡はない。

  

2.労働条件の一方的な不利益変更、同一労働同一賃金の原則、労働契約法3条

所定の均衡待遇原則の観点から公序良俗違反となるか

 

(1)労働条件の一方的な不利益変更に該当するか。

  シニア社員制度の導入の前後で、就業規則が労働者に不利益に変更された

 ものでなく、従前の嘱託制度に比して、従業員に有利に改正された。

 

  控訴人は、シニア社員制度の賃金額と正社員の賃金額を比較して不利益変更

 である旨主張しているが、正社員とシニア社員とは雇用形態が異なり

 労働条件が不利益に変更されたか否かで検討すべきは、シニア社員制度導入

 以前の嘱託社員の賃金額とシニア社員の賃金額であることは明らかである。

 

(2)同一労働同一賃金の観点

  控訴人は、満60歳に達するまでは、正社員としての労働契約を締結していた

 が、定年退職した翌日以降は、シニア社員としての新たな労働契約を締結した

 のであるから、同一労働同一賃金の原則や均等待遇の原則が妥当するのは、

 もともとは、同種の労働契約に基づき同一賃金体系によっている

 シニア社員間で問題となることがらである。

 

  控訴人は、シニア社員の賃金額と正社員の賃金額とを比較して、

 同一労働同一賃金の原則や均等待遇の原則に反すると主張するが、

 正社員とシニア社員とは労働契約の種類・内容が異なり、異なる賃金体系に

 基づくものであり、正社員とシニア社員との間には、本来的には、

 同一労働同一賃金の原則や均等待遇の原則の適用は予定されていない

 ことである。

 

  さらに、同一労働同一賃金の原則といっても、同原則が労働関係を規律する

 一般的な法規範として存在していると認めることはできないし、「公の秩序」

 としてこの原則が存在していると認めることも困難である。

 

  したがって、シニア社員制度が同一労働同一賃金の原則に違反しているから

 公序良俗に違反して無効であるとはいえない。

 

(3)均等待遇の観点

   65歳までの継続雇用の義務化の実現を段階的に支援するため、労働者の

  60歳到達時の賃金月額の25%以上下がった場合には「高年齢雇用継続給付金」

  が支給され、①61%未満の場合には60歳以後の賃金月額の15%、②61%から

  75%未満の場合には60歳以後の賃金月額の0~15%の額が支給される。

 法が75%以下となることを許容し、61%となることまでも具体的に細かく予測

  した上で支給金の割合を決定しており、少なくとも同一企業内において賃金額

  自体を比較した場合には、制度上織り込み済みというべきものである。

 

  又、54.6といった数字は、我が国労働市場の現況や定年退職後の雇用状況

に鑑みると、これが公序良俗に違反するとまで認めることは困難である。

 

3.不法行為の成否について

 控訴人がシニア社員制度における「時給1000円、賞与なし」の条件を上回る

賃金請求権を有していると認められない以上、

控訴人には何らの損害も生じていないのは明らかであるし、

本件シニア社員制度は公序良俗に違反しないから、

シニア社員制度の導入・控訴人に対する適用が

控訴人に対する不法行為に該当するということはできない。

 

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