安川電機八幡工場(パート解雇)事件(福岡高裁H14.9.18)

▽労働契約法第17条(期間の定めのある労働契約)に関する判例

 

安川電機八幡工場(パート解雇)事件
■概要
 有期契約労働者の契約期間中の解雇について、

事業の縮小その他やむを得ない事由が発生したときは契約期間中といえども解雇

する旨定めた就業規則の解釈にあたっては、解雇が雇用期間の中途でなされなければ

ならないほどのやむを得ない事由の発生が必要であるというべきとした。

 

★ポイント
1.X1、X2はY社の「Dスタッフ」と呼ばれる短時間契約従業員として3ヶ月

 の雇用期間を定めて雇用され、モーターに取り付ける検出器の調整取付けに従事

 していた。

 X1は14年間、X2は17年間、同様の契約が更新されてきた。

2.Y社は契約期間中、X1らに「パート退職願い」用紙を配布し、退職理由欄には

 「会社都合」と記入し、押印の上提出するよう指示した。

3.Y社の「Dスタッフ就業規則」には、

 「会社は、次の各号の1つに該当するときは、契約期間中といえども解雇する。

 5号 事業の縮小その他やむを得ない事由が発生したとき」(9条)、
 「前条の規程による解雇については、本人の責めに帰すべき事由を除き、

 30日前に本人に予告する」(10条)との規定があった。

4.X1らは、Y社のなした整理解雇の意思表示が、解雇予告義務に反し、

 解雇理由が存在せず解雇権濫用であり無効である等主張し、

 労働契約上の地位保全及び賃金仮払いの仮処分を申し立てた。

☆判決の要旨
1.「パート退職願い」用紙を配布したことをもって、上記通告が退職勧奨

 であって、解雇予告ではないとは認められない。

 

2.期間の定めのある労働契約の場合は、民法628条により、原則として解除は

 できず、やむことを得ざる事由ある時に限り、期間内解除ができるにとどまる

 (ただし、労働基準法20条、21条による予告が必要)
 
3.就業規則9条の解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が、3ヶ月の雇用期間

 の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要である

 というべきである。

4.Y社の業績は、本件解雇の半年ほど前から受注減により急速に悪化しており、

 景気回復の兆しもなかったものであって、人員削減の必要性が存したことは

 認められる。

5.ただし、本件解雇により解雇されたパートタイマー従業員は、

 合計31名であり、残りの雇用期間は約2ヶ月、

 X1らの平均給与は月額12万円から14万5000円程度であった。

6.また、Y社の企業規模などからすると、どんなに、Y社の業績悪化が急激で

 あったとしても、労働契約締結からわずか5日後に、3ヶ月間の契約期間の終了

 を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が

 発生したと認めるに足りる疎明資料はない。
 
7.したがって、本件解雇は無効であるというべきである。

☆検討

→解雇が合理的かつ社会通念上相当なものとして是認することができるかどうか?


1.認定事実によれば、本件においてはいわゆる整理解雇の4要件のうち、

 人員削減の必要性、解雇回避努力、手続の妥当性の3要件は満たされている。

2.被解雇者選定の妥当性について検討するに、X1は無断欠勤無断遅刻があり、
 これまでにも上司に注意をされたが是正されていなかったことが認められるから、

 Y社がX1を選定したことに違法は認められない。

3.X2については、Y社が主張するX2の勤務態度や協調性の問題点については、

 時期、態様等について具体的な主張がなく、これを疎明するに足りる客観的な資料

 や他の候補者との比較資料の提出もなく、さらに、Y社が、当初、X2に対して

 年齢とか勤務状況であると答え、その後も具体的な理由は明確にされていなかった

 ことに照らし、X2が選定されたことが妥当であるとは認められない。

4.したがって、X2については、仮の地位を定める仮処分についての被保全権利の

 存在が一応疎明されているというべきである。

▽結論
1.X1については、

 整理解雇の四要件をすべて充足しているから、結局、

 本件解雇の翌日から労働契約期間満了までについてのみ、

 その賃金の請求権の存在が一応疎明されているとして、

 その期間についての賃金の仮払仮処分を認めた。

2.X2については、

 整理解雇の四要件のうち被解雇者選定の点が妥当ではないから、
 仮の地位を定める仮処分についての被保全の権利の存在が一応疎明されており、

 結局、現時点での労働契約上の権利を有すること及び本件解雇の翌日以後の

 賃金請求権の存在が一応疎明されており保全に必要性も認められるとして、

 労働契約上の地位保全の仮処分及び本件解雇の翌日以後本案第一審判決言渡しに

 至るまでの賃金の仮払処分を認めた。

△コメント
 有期雇用契約の途中解雇の場合、次の2つの論点(争点)を考える必要がある。
1.解雇が有効であるか?
  整理解雇4要件を満たしているか。

 

2.途中解雇が有効であるか?
  有期労働契約の途中解雇が有効であるためには、

 やむを得ない事情がなければならない。

 解雇が有効であっても、途中解雇が無効であれば、

 有期雇用契約の契約期間が満了するまでは、

 労働者としての地位(身分)を保障しなけらばならない。

 

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